雑感2015.11.3

母方の祖父は暖かい手の持ち主だった。
農業を営んでいた祖父は、大地を耕す中で太陽の恵みをその手に刻んできたのだと思った。

祖父が亡くなる1か月前に会いに行った時、手はもう暖かくなかった。
亡くなった後、俺は勝手に、その太陽の恵みは自分の手に受け継いだのだと思った。

でもそれって、俺の手柄でも何でもない。
社会的関係のシーケンスの果てに、たまたま分不相応にもいただいてしまった。
そのまま古井戸の底にロウソクを下ろしたみたいに、ひっそり闇へと消えてしまうものだ。
今じっと手を見て、自分の欠格の度合いに、途方にくれるばかりだ。

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社会に出たら、歯車になりたかった。
なりたくない、という人の方が一般的なようだけど、
俺はそれからすると真反対の志向だ。

桁外れの落第生だった俺でも、今まがりなりにも頭脳労働で生計を立てているわけだけど
この頭脳労働というものは農業のような実体が無く、
取り組むテーマによっては、自分が歯車になっている感覚をどうにも得難い。

だから、頭脳労働によって社会的インフラに携わることで、
社会の歯車の一部たる自分を実現したかった、というのが、
かれこれ7年ほど前の俺の、生きるための言い訳だったように記憶している。

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過去からタイムマシンで2015年に来てしまったら、
「なりたかった自分」というやつがほとんど実現できていて、驚くんだろう。

いま住んでいる国の社会的インフラが大きく変貌するであろう歴史的瞬間を
4年前に手がけた仕事がきっかけで、特等席で目の当たりにすることを許されて1年が過ぎようとしている。
今は欠けている歯車に、これからなることを要求されているという実感が非常に強い。

でもそれって、俺の手柄でも何でもない。
社会的関係のシーケンスの果てに、たまたま分不相応にもいただいてしまった。

俺に、今まで会えなかったレイヤーの人々が、真剣に仕事の話をしてくれたり、
俺が、今まで隷属していたかもしれないレイヤーの人々を、真剣な仕事でないと叱り飛ばしたりしていると、
ふと自分が偉くなったような勘違いをしてしまっている瞬間があってぞっとする。
分不相応なことは何も変わっていなくて、自分を不断の努力により大きく変えていかなければならなくて、
ともすれば自分を糊塗したくなる。

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それでいて人生は、やはり飽き飽きして虚ろなままだ。

社会的役割としては、向こう15年はタスクが無くなりそうにない気がしていて
やるべきことに溢れているし、それは社会的意義だって高い。

でも、それらの実に興味深いことをこなすだけでは
もう俺の精神世界は拡がり得ないのだ。
すべてがお釈迦様の掌の中に収まってしまった感じがずっとあって、
人生の残り時間をそこに投じることに対して
途方もない無駄遣いをしてしまっているのではないか、という背徳感すらある。

だからか、最近はどうやら自分の指針を失ってしまっていて、確実に自棄だ。
なりたかったものになってしまった後は、どうしたらいいんだろうね?

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もう宇宙に行くしかないかもね!

錦糸町駅から歩いていけるところにできた、
現代美術を紹介する企画ギャラリー「Arai Associates」のWebサイトの写真を撮影しました。
http://www.araiassociates.com/
サイト全体で使われているほか、「gallery」ページにも掲載されています。
直近の展示では週末のみ開いているので、足を運ばれる方は事前にスケジュールをご確認ください。

ギャラリーというとだいたい
白無地の壁で単純な構造をしているところ、
みたいなイメージがあるかもしれませんが、
ここはビルの内装を取っ払った、非常に無骨でカッコイイ場所です。
ユニークで一見の価値ありですよ!

sjue「2051」トレイラー映像

sjueの新しいアルバム「2051」のトレイラー映像を、
2曲目に収録されている「Stay Like That」で作成しました。

今回は、2015年2月6日のライブ映像と、
ライブVJで使用した映像・エフェクトを積み立てて、
あまり深いことは考えずに短いトレイラーに仕立てました。

実は、もともと別の曲に合わせて作ったトレイラーなのですが、
いろいろあって「Stay Like That」にあて直しました。
もともとの曲が何だったか、アルバムを聴いたり、ライブを見ながら推理するのも
おもしろいかもしれませんね!

走る馬のシルエットだけは、自分で撮ったものではなくて
おそらく最古の部類に入る写真実験「Sallie Gardner at a Gallop」を改変して使用しています。
モノクロの無機的な街を生き生きと駆けていく馬、という生のモチーフに使っています。

生のモチーフっていうのは、今回けっこう大事に感じていて、
わかりやすい自然のイメージ 馬、星空、魚群 で代表させるようにしました。

馬とオーバーラップさせている、リズムに乗った波のエフェクトは
ライブVJで使用している自作ソフトでタップシンクさせたものを撮影して使用しています。
あと、途中に入る星空のイメージが印象的だと思いますが、
これ、ほんとうの星空じゃなくて、 Photoshop のノイズエフェクトを積み立てて作った架空のものです。
生のモチーフをまったくの人工物で構成するというのはなかなか罪深い話な気もしますが、
今回はあまり深いことを考えず、きれいだナーというノリ一発で作っていますので...

sjue「2051」ジャケット写真

2051.jpg

sjueの新しいアルバム「2051」のジャケットに使われている絵を撮影しました。

場所:
   戸田家
使用機材:
   Canon EOS 5D

   Canon 28-80/3.5-5.6 II USM + マクロリング

   Adobe Photoshop CC

今回の絵も、前作前々作と同様に
ボーカルのやっちゃんが描いたものなんですが、
これまでと大きく違うところがあります。
ジャケットになっているのは絵のごくごく一部、1cm角くらいの細部なんです。
全体のうちのごく一部、そこに迫ることで感じられるグロテスクさなどを表現したかったそうです。

ごく細部ということで、スキャナーを使ったりいろいろ試行錯誤があったのですが、
最終的に、照明を何パターンか試してのマクロ撮影になりました。
しっかり撮るのがけっこう大変でした!

犬を飼い始めた。

fuyuko.jpg

7年ほど住んだアパートを出て、隣町に引っ越した。
妻が犬を飼いたがったので、ペット可の物件に引っ越す必要があったからだ。
家賃が1万円上がったけど、それくらいなら、まあしょうがないか。

引っ越して3か月ほど経ち、そろそろお迎えしても良いくらいに落ち着いてきた。
飼う犬は、ランコントレ・ミグノンという動物保護団体から引き取ることに決めていた。
この団体は、放っておけば殺処分になってしまう動物を引き取り、飼ってくれる人が現れるまで保護している。
多少いやみな言い方をすれば、ここにいる子はみんなそれぞれに訳あり。
でも、月2回の譲渡会に出向けばわかるけど、みんなとても良い子ばかりだ。

みんな良い子だから、誰を引き取ろうかとても悩ましかった。
変な眉毛のある子にした。

ほんとうにちゃんと引き取れるのか、ということもあるので、2週間トライアルで引き取ってから正式譲渡という流れになっている。
まだようやく1週間経ったところだけど、もう1か月くらい経ったような気持ちになる。
ちゃんと引き取れるのか自分たち自身がいちばん不安だったのだけど、すごく良い子だったことに助けられて、今のところ何の問題も無い。
逆に、この子は実は嫌がっているのをがまんしているだけなんじゃないか、って心配になるくらいだ。

名前は「芙由子(ふゆこ)」にした。
いつもは、ふうちゃん、と呼んでいる。
毎日毎日、とてもかわいい。
でも残念ながら、僕にはまだなかなかなついていない。すごく怖がられている。
時間が必要なのだろう。

ふうちゃんは、たぶん以前おばあちゃんに飼われていたんじゃないかって思う。
お茶のにおいを妙に好いて、飲みたがる。そんな犬、聞いたこと無い。
タンニンがあまり体に良くないらしいのであげられないけど、昔は飲んでたんじゃないかな。
3歳くらいだろうと推定されているふうちゃんに、これまでどういう生涯があって、どういうときにお茶のにおいに良い思い出ができたんだろうな、ってことを考え出すと、なんだか泣けてきてしまう。

わからないことはお互いにまだまだ多いけど、これから長く、同じ家族で暮らしていくのだ。

下北沢Bakery & Cafe mixture は2014年2月から三軒茶屋 世田谷パブリックシアターにも出店されています。
おいしいコーヒーの他に、下北沢のお店で出されているものと同じしっかりしたサンドイッチなどが劇場内でも食べられることをご来場の方にわかりやすくするため、昨年 2014年11月頃にポスターなどに使える写真を撮りました。
世田谷パブリックシアターのWebサイトに一部掲載されています。

Processingベースで作って使っているVJソフト、PDEでがんばって作ってたけどそろそろファイルが増えすぎて普通のIDE上で作り直したいな、と思っていて。
こういう場合はPDEにバンドルされているcore.jarを抽出して扱うのが普通らしいんだけど、いまいちスマートなやり方じゃない。Mavenとかがつかえるならそっちの方が良いよね、というのはみんな考える。
ただ、残念ながらProcessing公式のMavenリポジトリーは無いので、いかに自前のリポジトリーを作るか、というところに主眼が置かれる。

Mavenリポジトリーはjarファイルとpomとチェックサムさえ静的に置ければどんなWebサーバーでも作れるので、最近はGitHubのリポジトリーで私的なリポジトリーを作っちゃう手法が普及してきている。
Processingの開発もGitHubに移行しているので、GitHubを中心にして一通り作ってみた。

  1. Processing公式リポジトリーをforkする。

公式リポジトリーは次のURL。
https://github.com/processing/processing

  1. ターゲットとするバージョンのタグでチェックアウトする。

2015年2月2日現在では、最新の安定バージョンは2.2.1
3.0a5もあるけど、過去の経緯からするとだいたいaとかbとかつくバージョンは常用するには問題が多い。

  1. ブランチ「gh-pages」を作る。

GitHub Pagesが有効になる。
これで、core.jarを静的に配信する基盤ができる。

  1. リポジトリーの build/build.xml にMavenリポジトリー用のファイルを書き出す設定を加える。

例えば、こんな感じで<target>要素を追加すると、buildタスクの延長でMavenリポジトリー構造が作れて楽。
ant runで生成されたcore.jarをMavenの公開領域にコピーして、pomとチェックサムも生成している。
https://github.com/hiroshitoda/processing/blob/gh-pages/build/build.xml

<target name="mvn-repo" description="Perform maven repository structure.">
<property name="processing.version" value="2.2.1" />
<delete dir="../maven" />
<mkdir dir="../maven" />
<mkdir dir="../maven/processing" />
<mkdir dir="../maven/processing/core" />
<mkdir dir="../maven/processing/core/${processing.version}" />
<copy file="../core/library/core.jar" tofile="../maven/processing/core/${processing.version}/core-${processing.version}.jar"/>
<checksum file="../maven/processing/core/${processing.version}/core-${processing.version}.jar" todir="../maven/processing/core/${processing.version}" algorithm="MD5" fileext=".md5"/>
<checksum file="../maven/processing/core/${processing.version}/core-${processing.version}.jar" todir="../maven/processing/core/${processing.version}" algorithm="SHA-1" fileext=".sha1"/>
<echo file="../maven/processing/core/${processing.version}/core-${processing.version}.pom" encoding="UTF-8">&lt;project xmlns="http://maven.apache.org/POM/4.0.0" xmlns:xsi="http://www.w3.org/2001/XMLSchema-instance"
xsi:schemaLocation="http://maven.apache.org/POM/4.0.0 http://maven.apache.org/xsd/maven-4.0.0.xsd"&gt;
&lt;modelVersion&gt;4.0.0&lt;/modelVersion&gt;
&lt;groupId&gt;processing&lt;/groupId&gt;
&lt;artifactId&gt;core&lt;/artifactId&gt;
&lt;version&gt;${processing.version}&lt;/version&gt;
&lt;packaging&gt;jar&lt;/packaging&gt;
&lt;name&gt;core&lt;/name&gt;
&lt;url&gt;https://github.com/processing/processing&lt;/url&gt;
&lt;properties&gt;
&lt;project.build.sourceEncoding&gt;UTF-8&lt;/project.build.sourceEncoding&gt;
&lt;/properties&gt;
&lt;/project&gt;</echo>
<checksum file="../maven/processing/core/${processing.version}/core-${processing.version}.pom" todir="../maven/processing/core/${processing.version}" algorithm="MD5" fileext=".md5"/>
<checksum file="../maven/processing/core/${processing.version}/core-${processing.version}.pom" todir="../maven/processing/core/${processing.version}" algorithm="SHA-1" fileext=".sha1"/>
</target>

  1. 書き出したファイルをGitHubにpushする。

  2. Mavenプロジェクトのpom.xmlにリポジトリー設定を追加して依存性解決できればOK。

GitHub PagesのリポジトリーURLは、Mavenリポジトリーのルートパスを設定すれば良い。たとえば、次のような感じ。

<repositories>
<repository>
<id>GitHub processing (hiroshitoda)</id>
<url>http://hiroshitoda.github.io/processing/maven/</url>
</repository>
</repositories>

脱皮

_MG_4330.jpg

蝉の脱皮に出くわした!
生まれて初めて!

夜の猫 4

_MG_4262.jpg

yachiko 「Yes」 映像

yachikoが2014年1月21日にリリースするCD「pellet」から1曲
「Yes」の映像を作りました。
YouTubeにはプロモーション用の短い映像しか出していませんが、
CDの初回/予約購入特典としてついてくるDVDには
フルバージョンが収録されています。
ぜひCDを買って、フルバージョンをご覧ください!

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今回の映像は、当初は他の方が作る予定だったのですが、
いろいろあって、最終的に戸田がやることになりました。
yachikoが描いた絵のアニメーションを入れる、などの要素は
戸田がやる前に進められていた企画を継承したものです。
その他の部分は、夜明けから日暮れまでの
日常的なカットを中心に撮りためて
その中からきらきらした瞬間を切り取っていく、
という方向で、戸田の方で組み立てていきました。

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「Yes」という曲は、ぱっと歌詞を読んだだけだと
日常的な愛情の歌のようにも見えるのですが、
yachikoによれば、これは絆を失なってしまった後に作った歌なんだそうです。
「あなたが "Yes" と言えば、明日はきっと晴れる(のに)」
っていう、反語っぽいものを含んだ歌なのかな。

だからといって、映像については
寂しさや悲しさで沈んでいるだけの印象にするのも違うと思って、
少し大人になった女性が、悲しいことがあったけど
柔らかく包み込んで、きっと明日に向かって歩いていけると自分に言い聞かせる、
という、揺れる感情を許容した雰囲気にしたいな、と思いました。

その辺りを踏まえて、
この映像は全体的にモノクロの風景で一辺倒に固めつつも
おおまかに、過去の甘い記憶を歌う人格と
未来に向かって歩いていく人格という
対称的な2つの要素で構成しています。
例外的にカラーのカットがあったりしますが、
これは甘い記憶のフラッシュバックを意図しています。

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今回は、モノクロの質感にかなりこだわりました。
戸田はもともとモノクロ映像は文脈によらずよく使ってきましたが、
いつもと違う点として、白飛びも黒つぶれもしない、中間調の描写を強く重視して、
柔らかく手触りのある、1980年代くらいのフィルムっぽい軟調な質感で
優しい世界を演出しようと思いました。

そういう描写にしようかな、という発想の種は
数年前に、何の気無しに見たLINDBERGのMV集までさかのぼります。
いきなり極端に中間調の豊かなモノクロ映像が出てきて、驚いたわけです。

ああそういえばあんまりこういう質感って最近 継承されてないなあ、
すごく良いもんだなあ、と。
懐古趣味としてのフィルム映像ではなく、スムーズな画質が得られた頃のフィルム映像、
というのが心に強く残って、それからずっと引きずっていました。

今回、音楽と映像の文脈に合う質感として、このときの種を活用することができました。
うまくはまったんじゃないかな、と思います。