ワイルドマイルド PV「西方見聞録」制作について

ワイルドマイルド「西方見聞録」PV制作について、
ちょっとした裏話も含めて書いておこうと思います。


◆経緯

2005年3月の戸田の個展のときに、被写体であったワイルドマイルドの皆様も来場されていたのですが
そこで戸田が制作したドイツオレンジのPV上映をたまたま見て、
へーっ普通にPV作れるんじゃん、という感じの印象を受けられていたようです。

その場で「うちらのときもお願いねー」なんてことを言われたものの、
ワイマイには「3センチメンタルガール」という曲のPV(SSTVでリクエストできます)を制作した
荻上直子監督がいらっしゃいましたので、
あえて僕には回ってこないだろう と あまり真に受けてはいませんでした。

ただ、荻上さんが近頃非常にご多忙だったこともあってか
8月上旬頃「西方見聞録」のリリース決定時に、戸田へPV制作依頼をいただきました。
そこから撮影内容の打ち合わせ等でごにょごにょありまして、
実際の撮影は9月に入ってからです。


◆イメージ

ワイマイのPV制作は初めてでしたが
「西方見聞録」の曲調に合った、
・とにかくポップ
・とにかくポジティブ
そして、
・とにかくミーハー
なものを作ろうと思いました。

例えば、子供が目を輝かせて見るアニメのオープニングのような、わかりやすい真っ直ぐな爽やかさ。
例えば、ファンの女の子が間違いなくドキドキできるような、明らかなかっこよさ。
例えば、ワイマイメンバーのご両親ぐらいの世代が見て微笑ましく思えるような、若々しい活力。

そういうものが、メジャー感あふれる「西方見聞録」にはぴったりだと思ったのです。
少なくとも、思わせぶりなペシミズム、シニシズム、シュールをちらつかせて気を引く類の映像は作るまい、と。
(どうしてもほっとくとそっちに行っちゃいますからね・・・)

とりわけ、ファンの女の子のことは強く意識して案をまとめていきました。
個人的な知り合いが非常に多いので、放映された先の喜ぶ顔をイメージしやすかったのです。

演奏シーンでの配色も、鮮やかで爽やかなものを選んでいき、
最終的にはオレンジ、青、白の3色を使いました。
あたたかいお日様と、千草色の空と、ふかふかの雲の、普遍的な色ですね。

また、長回しの間延びしたカットは極力作らず、
2?4小節単位でテンポ良くリズミカルに切り替わる映像になるよう心がけました。


◆ストーリー

映像の案は3?4つ考えていましたが、
最終的に採用したのは

「からっぽで不安なトランクに荷物いっぱい詰め込んで、

街から街へと車での旅のさなか、

次の街でのライブを夢見るワイマイメンバー」



という、ロードムービー的なシンプルなものでした。

つまり、演奏シーンはあのPVの中ではみんなメンバーの次の街の夢なんです。
ステージに上がるまではきわめて普通の、ナチュラルカラーの中に生きる青年男子と、
ステージに上がるとにわかに輝いて、ヴィヴィッドカラーの夢を振りまくバンドマン。

ファンの方々によくある「メンバーのオフショットを見たい」願望に応えつつも
映像としてメリハリをつけようとしたときに、このような対比を取ることになりました。


◆撮影

当日の撮影スケジュールは次のようになりました。

13:00 幕張海岸へ移動、撮影
14:00 佐倉へ移動、撮影
16:00 千葉へ移動、待機
20:00 リハーサルスタジオ入り、待機
21:00 バンド演奏撮影
23:30 撮影終了

いやー長かった。

当日になってノリで決めたカットや、
カットは決めていたけど車の置き場所に困ったりなどがありまして、
結果こまごまと移動することになりました。

幕張海岸では写真撮影もしました。
ここまではすごくいい天気だったのですが・・・。

佐倉への移動中に非常に雲行きが怪しくなり、
案の定、谷田さんが車のトランクを閉じるシーンの撮影直後に大粒のにわか雨となりました。
間奏直後の大雨のシーンはそのときのものです。

演技ではなく、リアルに途方にくれました・・・

今回の印象的なシーンをたまたま撮れたのはよかったのですが、本当にすごい集中豪雨でした。

雨が降っているうちは、メンバー4人でツアースケジュールの確認をしていました。
「Excelなスケジュール」、見せていただきましたよ。

演奏以外のシーンは幕張、佐倉と移動中の車内で撮影し、
演奏シーンは千葉のSTUDIO PENTA IIで撮影しました。
セッティングで手間がかかることが予想されたので、
ここから戸田の知り合いの新井さんにお手伝いをお願いしました。

演奏シーンは、今回かなりのパターンを撮っています。
バンド全体フルコーラスで4パターン、各メンバーのフルコーラスをそれぞれ1パターン、
各メンバー間奏部分でそれぞれ2パターン。

スタジオ照明に加えてアイランプ300Wを2灯使いましたが、
バンド全体を照らすにはそれでもちょっと暗かったかな・・・

(撮影:新井 杏)

撮影終了後、帰りは高永さんに送っていただきました。多謝。
♪東京のまちあかり?♪の部分は、その帰り道に撮ったものです。

「東京の街灯り、って○○のことなんだよ?」など、いろいろ興味深いお話が聞けました。
いつかライブのMCで聞けるかな?


◆撮影機材

一応一般放映用のPVという依頼だったのですが、
当初はそれほど広い範囲で放映する予定ではなかったこともあり
戸田の手持ちの家庭用ハンディカム Victor GR-DVL7 ですべて撮影してしまい、費用を抑えました。

家庭用とは言えど、プログレッシブ撮影やハイスピード撮影ができたりと
自主制作で映像やってる人間にとってはおいしい機能が満載のこのカメラ、
ドイツオレンジのPV集「ブラックサンライズ」制作の際にもメインで使いました。
けっこう良いカメラなのですが有名ではなく、中古市場でも異常に安いです。

しかし今回のPVを制作した後、このカメラは調子が悪くなってしまい現在ダウンしています。
よくがんばった お疲れ様でした。


◆編集

戸田はいつもやっているのですが、
本編の編集の前に、気持ちを盛り上げるために15秒のCM風映像を作るんです。
そこで思いついたり、具体的になったりしたイメージをPVの一番おいしいところ、サビなどに持っていくと、
自然と心をつかみやすいPVが作れるからです。

サビの映像は、特にそのCM風映像をそのまま持ってきた感じになっています。

今回は歌詞の内容などから、
ストーリー以外にも起案段階でなんとなく決めていたイメージがありましたので、
それらをすべて突っ込みました。

・方位磁針

向かう方角を強く意識した歌詞でしたので、
まずは「西を指し示す方位磁針」をモチーフにすることに決めました。
最初はただの方位磁針ではなく、風水で使われるような複雑なものを考えていましたが、
メンバーの演奏シーンと合成する際に細かくなりすぎてわかりにくくなってしまうため
シンプルなものにしました。

東西南北のフォントが普通の漢字と違うことに気がつかれた方もいらっしゃると思いますが、
言葉としての意味はあるんだけどシンボリックな意味の方が強い文字を使いたかったので、
篆書(てんしょ)という、印章などで使われるような古い字体のフォントにしました。
白舟書体のフリー版を使っています。

回り続ける方位磁針は、場面ごとでころころと意味が変わっていきます。

夢を乗せて進む「僕らの船」だったり、
期待で高鳴るメンバーのハートだったり、
次の街へと回り出すホイール・オブ・フォーチュンだったり。

ポジティブな「生」のモチーフだったので、その動きには気を遣いました。
目盛りの線を周期的に微妙に歪ませて、回転の中に生き生きとしたサイクルを感じさせるようにしたり、
放物線を描く動きが不自然にならないように、1コマ1コマ動きを微調整したりもしています。

・不安を隠すふくらんだ期待、シルクロード



ひとり分の荷物しか入っていない、どことなく不安なトランクを見つめる谷田さんが
次第に期待で胸をふくらませていく様子を、
歌詞にある「シルクロード」の言葉と合わせて、柔らかにたなびく布で表現しました。
渋谷マルナンで買ってきた裏地用の柔らかい布を別に撮影して、編集時に合成しています。

布の色は曲の進行に合わせて、朝→昼→夕方の順に、青→黄→ダークオレンジに変えました。

・水平線の彼方まで届けたい歌

♪風を味方につけて♪ のところで、一陣の風が吹いて背景がたなびくようにしました。
ちょっとわかりにくいかもしれませんが・・・

このときの背景は、千草色の「空」のイメージなのですが、


♪水平線の彼方まで♪ のところで上からお日様のオレンジが降りてくるにつれ
歌詞と合わせて、連続的に「波打つ海」のイメージに変わっていきます。
そして水平線を切り裂くように、真っ白な夏の雲、「届けたい歌」が現れるようにしました。

こう言ってみると最高に素敵なイメージなんですけど、
実際に作ったところで、まるでどこかの国旗のようだなあ、と。
変に誰かのナショナリズムを刺激してもいけないので、
一応、同じデザインの国旗がないことを確認してからこの映像を採用しました。

・最果ての街で見つけたもの

道路を走る映像をどんどんどんどん早回しにして(10倍速くらいにしています)、
やがて景色が溶けていって真っ白になった「最果て」の中、
トンネルを抜けるように次々とワイマイが現れます。

そこまで深い意味はなくて、映像としてだけのイメージなのですが、
あえて言うなら、最果ての街で見つけたものは他でもない自分たちの歌だった、という感じでしょうか。

・間奏、ひとりだけスローモーション
音楽がかっこいい間奏部分に合わせて、トリッキーな映像で目を引こうと思いました。
どうやったらかっこよくなるかなー といろいろ考えまして、
「演奏している4人のうち、ひとりだけスローモーションになる」という映像を作ることにしました。

3人だけの演奏シーンをそれぞれ4パターン撮って、ひとりだけのスローモーション映像とくっつけています。

・新しい旅へ

ラストは、空と海の向こう側へ旅立っていくイメージにしました。
「3センチメンタルガール」のPVも最後は海なので、またかよ! とか言われそうですが・・・

ラストシーンにもう1フックほしかったので、
ここまでのはっきりくっきりした映像とは違い、ぐっと淡くきれいにした映像にして
「新しい旅」という、はっきりしないけど素晴らしいもののイメージに合わせてみました。
実は谷田さんはこのときふざけて、何かをたくらんでるみたいななかなかヨコシマな顔をしていたのですが、
おどける直前の力の抜けた表情が良かったので、切り出して使いました。
谷田さんファンの女の子は、きっと喜ぶだろうなあ、と。


あらかじめ考えていたイメージはこれだけで、あとの映像はノリで作っています。

・寝ているメンバーを高永さんが連れて行く

実際のツアー中にもよくある光景だということと、
たまたま移動中に寺尾さんがうたたねしていたので、
他のメンバーと悪ノリして撮ってしまいました。いひっ


あと、場面の切り替え時のワイプですが、今回は細めの帯ワイプと上下左右のクロップでほぼ統一しました。
戸田はあまりワイプは使わない方ですが、案外かっこよく使えるものですね。

◆編集機材

・PowerMac G5 1.8G Dual
・MITSUBISHI Diamondtron Flat RDF17S
・Final Cut Pro 4.5
・Motion
うーん 最近よくいるクリエイター的な組み合わせが戸田は気に入りませんが。

スローモーションを多用することは起案段階から考えていたので、
Twixtorという高品質なリタイマーソフトを導入して、
PV全編にわたる、比較的なめらかなスローモーション映像を実現しました。
なめらかにできるのはせいぜい50%スピードくらいまで、といった印象でしたが、
無理して25%くらいまで落としてたりもします。

今回、方位磁針のベクターグラフィックスはMotionで作りました。

馬鹿正直に100個くらいのオブジェクトを使ってしまったので、

処理がすごく重くなってしまいました・・・。

Motionは初めてまともに使ったのですが、
なんだこりゃ 使いにくいよ!
結局、バンク等のモーションはFinal Cutでつけた方がきれいだったので、
Motionはあまり活躍はしませんでした。

コンポジションソフトって、一般的にはこんなものなのでしょうか。
戸田はAfterEffectsも使ったことないので、よくわかんないんですよね・・・。

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今回のPV制作については以上です。
あまり考えずに作っていたつもりだったのですが、
案外いろいろ考えてたんだなあ・・・

撮影からは3週間程度で制作しました。
この作業に専念できるなら1週間あれば十分だったかもしれませんが、
いろんなことの片手間にひとりでやってると、なかなか大変なものですね。

でも、いろいろな方に気に入っていただけたようで、とても嬉しいです。
何度も何度も見ていただけたら、光栄です。