◆経緯
確か7月あたりの初夏のことだったと思いますが、
突然ドイツオレンジ篠塚くんから連絡がありました。
11月に下北沢garageで初の自主企画を行うので、
それに合わせて4曲程度のPV集を作らないか、というもの。
発売もせず埋もれていた「妄想少女M」PVと、
当時、限定オムニバス盤「少年ロック vol.3」にのみ収録されていた
「サーズデ?スマイル」を入れる事だけはこのとき決まっていました。
そのときはスケジュール的な問題からすぐに手を付ける事は出来ない、と返答しておきましたが、
個人的にも「サーズデ?スマイル」は思い入れの深い曲でしたので、
ストーリーなどの原案はこのときから考え始めていました。
◆ストーリーと表現方法
「妄想少女M」のPVが好評だったこともあり、
自分のスタイルとして今回もなんらかのストーリーは盛り込む事にしました。
ただ、最初から見てないと筋道がわからずつまらない映像はPVとしてはだめだと思いますので、
何も考えずに見ても単純にかっこいい映像にもしようと心がけました。
そこで考えたのは、歌詞の世界に出てくる「偽ってしまう自分」を表現するために、
ひとつの映像、ひとつのカットのPVを作るのではなく、
「現実の自分」と「心の中の自分」、
同時進行的に複数のストーリー、複数の心理描写を映してしまおう、という手法でした。
別に手法として目新しいものではありませんが、
頭の中にそのイメージが浮かんだ時に、あまりにかっこよくてすごく感動しました。
そしてストーリーは、
「ふとしたきっかけで心が傷ついてしまい、それをめちゃくちゃなメイクで偽っていく女の子。
それを見て、音楽を伝えるだけでは耐えきれなくなった篠塚くんがギターを投げ出して飛び出していく。
本当は強いのに弱いふりをしている男の子を元気づけたくて
女の子は、本当は弱いのに自分を男の子に捧げてしまう。
男の子は元気になるのだけど、
女の子はまた彼のメイクで汚されてしまう。
女の子は、自分の優しさも汚れていると思ってしまい、行き場所がなくなってしまう。
女の子は心を癒すためにドイツオレンジの出ているTVで彼らの曲を聴くけど、
それだけでは心が本当には満たされないまま。
走って走ってやっと追い付いた現実の篠塚くんは、バケツ一杯の水を彼女にぶっかけて、
メイクを一切合切洗い流してしまう。
偽りを捨てた彼女の、満面の笑み。」
というものを考えました。
ただただシリアスに真っ暗に堕ちて行くのではなくて、
誰にも真似できないような、コミカルにすら見える必死さで救われてほしかったので、
「まるで24時間マラソンの中継みたいにずっと走り続ける篠塚くん」ですとか、
「バケツ一杯の水をぶっかける」というのは僕にとってとても重要な、譲れないところでした。
クスリと笑えつつも、どこか響いてしまう感じにしたかったのです。
ただ、この「ふとしたきっかけ」と、
そこから現実的に立ち直る術がなかなかうまく思い付かず、
けっこう撮影のぎりぎりまでいろいろ考え、悩みました。
水をぶっかけられて、はいオメデトウ、じゃあないのです。
それは彼女の精神世界ではひとまずのハッピーエンドだけれど、
心が傷つくようなことは現実世界では終わりなく続いていくから、
誰かが現実の中でも支えてあげなければならない。
最終的に、
「青空よりも青いビー玉を大事にしていた女の子が、
通りすがりの男の不注意でビー玉を割られてしまう。
男はお詫びとして口紅の色みたいに鮮やかな赤いビー玉を差し出すけど、
それは女の子の本当に欲しいものじゃない。
男は不器用なやり方で青いビー玉を直して、女の子に返す。
それは女の子がもともと大事にしていた形とはちょっと違うけれど、
男が、本当に欲しいものをわかってくれたことが、女の子は何よりも嬉しい。」
というエピソードを現実世界のものとして採用する事にしました。
なんだか三文芝居で間が抜ける映像だ、と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、
僕にとってはこういうシリアスすぎないことの方がずっとリアリティのあることなのです。
◆出演者
スケジュール調整等もあるので、PVは基本的にメンバーのみの出演で考えるようにしていますが、
この曲だけは特別でした。
「君」という、相手の存在をとても意識した歌詞だったからです。
映像に「君」が必要だったのです。
ところが、最初お願いしようとひそかに思っていた方が、なんと台湾に留学されてしまっていたのです!
撮影日も迫っていましたので本当に困りましたが、
イメージに合う方をなんとか探し、撮影前日の本当にぎりぎりの中で出演をお願いしました。
さとみちゃん、本当にありがとう。
◆カメラ
水をぶっかけるシーンで滑らかなスローモーションにしたかったので、
ハイスピード撮影のできる機材が必要でした。
安上がりな方法を模索するうち、
昔Victorからハイスピード撮影が可能なDVハンディカムが発売されていたことがわかりました。
それが、GR-DVL7 / GR-DVL700です。
僕はYahoo!オークションでDVL7を2万4千円程度で購入しました。
解像度を犠牲にする独自の記録形式になりますが、
今のところ最も安価に導入できるハイスピード撮影システムではないでしょうか。
なお、この独自形式を整形するフリーソフトがあります。
僕もこれを利用して、いったんTARGAシーケンスに出力してから
aviutlで結合しています。
もともとDVL7はこのシーンだけのために買ったのですが、
30fpsプログレッシブのモードもあり、案外画質が良いので、
そのまま他の撮影もこれだけで済ませてしまいました。
◆小道具
ストーリーを補強するために、今回はいろいろな小道具を使う事にしました。
まず、ライブじゃない音楽、虚構の世界でCDのように流れるドイツオレンジの音楽を表現したかったので、
小道具として、1970?1980年代風のちょっと古いポータブルTVを使おうと考えました。
暖かみのあるメカっぽいデザインのものがほしかったのです。
なかなか中古TVをしっかり取り扱われているお店も見つからなかったのですが、
長い間調べて行くうちにようやく、デザインアンダーグランドさんを見つけることができました。
西新井のお店の中でお手ごろな値段のものをいくつか見せていただいて、
ナショナル TR-509 を6000円で買いました。安い!
次に、女の子が使うメイク。
あまり肌に負担をかけないように、簡単に落ちるものとして子供用のおもちゃの口紅を使いました。
男ひとりで買いに行くにはかなりの勇気が必要です・・・。
口紅を塗るための筆も必要でしたので、
いろいろ検討した結果、イメージに近いデザインだったshu uemuraのものを使うことにしました。
黒色のメイクを何にしようかけっこう迷ったのですが、
本人のOKも出ていたので、思いきって水性の絵の具を使ってしまいました。
そして、ビー玉。
東急ハンズで、カメラ映えするきれいな色のものを探しました。
忘れちゃいけないのが、バケツ。
やっぱり東急ハンズで買いました。
◆撮影
バンドの演奏シーンは、今回は津田沼の某スタジオをお借りして撮影しました。
全体を固定カメラで1パターン、移動で1パターン、
篠塚くんがギターを投げるシーンでバストアップと足下の2パターン、
ドラム専用の固定で1パターンの、
合計5パターンです。
全体固定では見下ろした視点にしたかったので、天井ぎりぎりぐらいのところから見下ろしています。
ギターを投げるシーン・バストアップでは、
実際は篠塚くんはスタジオの壁まで思いっきり投げてます・・・すごかった・・・。
ロケは、「飛空挺ソング」「ホームシックホーム」と同じ日にまとめて撮りました。
水をぶっかけた後の女の子のリカバリーを考えて、
僕の家のある下北沢でストーリー部分を撮影しました。
主に北口の一番街近辺で撮影しています。
日の出ている明るいうちに撮りきりたかったのですが、
曇っていたこともあり、思ったより暗くなるのが早かったです。
肝心の水をぶっかけるシーンですが、人通りが少なくなるタイミングと
篠塚くんの気持ちの踏ん切りがなかなか合わなくて、
かなり時間がかかりました。
一度きり、取り返しのつかない部分なので、しょうがなかったですね。
基本的には30fpsプログレッシブで撮っていますが、
DVL7はプログレッシブではゲインアップができなかったので、
一部で光量を稼ぐために60fpsインタレースを使用しています。
◆編集
タイトル部分だけはかなり前に作っていたのですが、
本格的に編集作業を始めたのは11月に入ってからでした・・・。
終わんなかったらどうしよう、とけっこう泣きが入っていました。
全編に渡ってmoppi demopajaを使用しています。
ただ、前述のファイルサイズの問題がありますので、
イントロ、Aメロ、サビ、といった具合にプロジェクトを分けて作っています。
プロジェクトを分ける際に音楽の方も分割する必要がありましたが、
今回はSoundEngineの機能を使って分割しました。
映像素材は、いったんaviutlで色調補正をしっかり行ってからdemopajaに渡しています。
光量の足りない映像が多かったのでけっこう極端な色調補正をしたのですが、きれいに仕上がりました。
タイトル部分などで使われている砂嵐の映像は、
作成当時は僕の家にTVがなかったので、
「砂嵐」というフリーのスクリーンセーバーをPC上で流し、それを撮影しました。
複数の映像の位置関係は基本的にノリだけでとっていますが、
ところどころで位置関係にも意味を持たせています。
例えば、気持ちが沈んでいるフレームは下に落ちていくなど・・・。
映像がたくさん出てくるので手間がかかっているように見えるかもしれませんが、
実はこの手法はタイミング取りやカット割りがそれほどシビアではなく、
自由度と許容範囲が広いのであまり考えずにサクサク作れました。
demopajaでレンダリングしたAVIファイルは、Ulead VideoStudio上で結合しました。
個人的に、今までで一番いろんなことを考えながら作ったPVです。
伝わりにくい部分もあるかもしれないけれど、
これを見た方に、伝わってくれればなあと思います。
aoyi
戸田さんてばほんとにマルチな方なんですね(ドッキドキ)そうやってホントに色んなことを考えてチャレンジされていく行動力を尊敬してます。ドイツオレンジ、聴いてみようかしらん。
戸田
マルチじゃないですっ。
ドイツオレンジのPVは、近々某所で試聴と通販を開始するという噂も聞いています。
何か動きがあったらここでも告知しますよ。